「できる人」は「メタ認知」を活用している
認知心理学でいう「思考力のある人」とは、知識を多く身につけ、それを使って適切な問題解決の方法を導き出す推論能力に長けている人と定義できます。
学歴重視・年功序列といった価値観が崩れ、能力主義・実力主義の時代を迎えたいま、現実にこのようなタイプが「できるビジネスマン」としてもてはやされています。
ここまで繰り返し述べてきたように、目の前の問題、トラブルを解決する方策を導く推論を行う作業は、これに必要な知識や経験がなければできません。
その意味では、一定の知識を備えていることが、「できるビジネスマン」になるための必要最低条件となるわけです。
しかし、知識があっても適切な解決策を導き出せないのでは意味がありません。
豊富な知識が逆に推論の邪魔になることは、意外にあるものです。
たとえば、いろいろな問題に対して、「〜はこう言っている」という形で、推論を行わずに知識だけで答えてしまう人や、過去にどんな商品が売れたという経験則、いわゆるマーケティングの常識に縛られるあまり、ときと場合に応じた柔軟な推論ができない人などもそうです。
一見すると、学歴も高く優秀そうなのに、「できる人」という評価を得られないのは、じつはこのようなケースが大半です。
認知心理学の世界では、思考力にすぐれた人が複雑な問題に直面したとき、それをいきなり解決するようなことはしないと考えます。
実際の推論に入る前に、その間題を解決するために必要な知識を自分がどの程度有しているか、あるいは自分の推論が偏っていないかをモニタリングしてみるものだと考えているわけです。
この作業は、「メタ認知」と呼ばれています。
別の表現を使えば、メタ認知とは、自分が無意識ないし意識的に行っている認知活動を、さらに一段上から客観的に見る認知活動という定義もできます。
認知心理学者のブラウンは、問題解決にかかわるメタ認知を「自分の能力限界の予測」「問題点の整理」「適切な解決法の予測」「点検とモニタリング」「決断」などに分類しています。
人間の思考は、経験や嗜好、あるいはその立場などにどうしても左右されるものです。
たとえば、同じくらいの知的レベルの人を集めて、「たばこを好きな人がどの程度の比率で日本人にいるか?」という質問をしたとしましょう。
すると、質問された人が喫煙者か否かによって、答えの傾向が分かれてきます。
実際に行われた心理学実験でも、たばこを吸う人は高い数字を答え、たばこを吸わない人は低い数字を答えるという結果が出ています。
これは人間の推論パターンが、自分の立場によって簡単に変わってしまうことを意味しているのです。
現実のビジネスの場面でいえば、推論の材料となる知識を集める段階で自分の期待に沿う情報を優先的に集めていたり、期待に沿わない情報を直視しなかったりすることになりがちです。
嫌いな相手の主張と同意見にならないように、無意識のうちにゆがんだ推論を行っていることもあるでしょう。
その逆に、まわりの人間の意見がある方向に集中していたり、その道の権威と呼ばれる人の発言を聞くと自分の推論をついそれに合わせてしまう傾向もあります。
このことも、社会心理学者の実験で確認されています。
ところが、客観的な視点から自分のゆがんだ認知を修正するメタ認知を行える人は、このときの対応が違います。
さまざまな条件によって無意識のうちの影響を受けていても、「いまの立場に自分の認知が左右されていないか」「感情に振り回されていないか」「いままでの知識にとらわれすぎていないか」といった自己分析による修正ができるわけです。
このように、一段上から客観的に自分の認知活動を見つめることで推論の誤りを矯正できる点が、メタ認知にすぐれた人の強みです。
こうした推論の修正作業ができる能力を有していれば、どんなに情報や知識が多くても決して邪魔にはなりません。
自分のもつ知識が使えるものかどうかを常にモニタリングし、頭のなかで優先順位をつけたりしながら豊富な知識を整理することが可能だからです。
また、推論に強く影響を与えるまわりの人やその道の権威の意見にそのまま引きずられて誤った判断をすることも少なくなるでしょう。
メタ認知をいかに身につけていくかは、「ビジネス心理戦」に強い「できるビジネスマン」になれるかどうかを左右する重要なポイントなのです。
メタ認知は、トレー二ングマニュアルに従って鍛えていくというたぐいのものではありませんが、意識して経験を積むことによって、少しずつ身につけていくことができます。
どのような問題についても常にいくつかの解決策を想定する「複眼思考」を、叫がけることによってそれは可能となりますが、具体的なトレーニング内容は別の記事にゆずることとします。
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