批判的読書法で「複眼思考」を磨く
すぐれたビジネス思考力の持ち主の理想モデルを考えるうえでヒントになる理論をひとつ紹介しておきましょう。
人間の思考パターンの分類方法に、「単眼思考」「複眼思考」という分け方があります。
東京大学の苅谷剛彦教授が主張するもので、物事の一面にだけ目を向けてひとつの正解を求める思考を単眼思考、物事の多様な側面を認めて多様な視点でものが複眼思考で脱ステレオタイプ。
メタ認知力獲得トレーニングとしても有効。
考えられる思考を複眼思考と呼んでいます。
自分の思考パターンがこの単眼思考と複眼思考のどちらに近いかは、その人のビジネス思考力をはかる上でひとつの目安になります。
結論からいえば、どのような状況でもステレオタイプの単眼思考しかできないようでは、まわりからの評価を高めることはできないのです。
一般に、単眼思考の人の場合、世間の常識にとらわれる傾向が強いといえます。
多くの人がこの単眼思考に陥りやすく、苅谷教授が著した『知的複眼思考法』(講談社刊)という本にもそれを示す興味深い実験が紹介されています。
それによると、苅谷教授は、学生たちにあるビデオを見せ、解答用紙にそれについての簡単なレポートを書かせたそうです。
そして、解答用紙の欄外にA、B、C、Dと適当なアルファベットを書いて学生たちに返却した後改めて感想を求めたところ、Aと書かれた学生は「思ったよりできた」と喜びを表現し、CやDの学生は「あまりうまく書けなかったので」などと、たいがい言い訳を始めました。
その後、アルファベットは適当につけたものだという種明かしをすると、学生たちは一様にきょとんとしていたといいます。
つまり、このときほとんどの学生は、解答用紙に書かれたアルファベットを成績の評価と考えていたわけで、それ以外の何か別の印であるかもしれない可能性をまったく考えられない単眼思考に陥っていたわけです。
この話は決して人ごとではなく、どんな人でも陥りかねない、思考パターンのある種の危険性を示唆しています。
現実のビジネスの場面でも、ごく常識的な単眼思考でしか物事を見ることができず、判断を誤り、せっかくのビジネスチャンスを逃してしまったということはよくある話です。
この種の失敗を避けるには、多種多様な側面から物事を考えることができる複眼思考に磨きをかけるしかありません。
それはすなわち、ひとつの問題にひとつの解決しか念頭に置かない、オール・オア・ナッシングの検討方法をやめるということです。
これはメタ認知の獲得にもそのまま通じるものです。
ちなみに、苅谷教授は複眼思考に磨きをかけるトレーニング法のひとつとして、読書時に著者の主張を鵜呑みにせず、疑問をもって、簡単に納得しない「批判的読書法」を提唱しています。
本の段落ごとに「鋭い」「納得できない」「例外がある」と評価を書き込む方法で、知識を吸収する場である読書が推論トレーニングの場に転換できるというわけです。
より日常的で手っ取り早い方法として、私ならば、いろいろな立場の人の心境で同じ事柄を見てみる方法をすすめます。
たとえばプロ野球のドラフト制度についてでもいいのです。
人気球団の立場、不人気球団の立場、ファンの立場、選手の立場など、多面的に考えてみるだけで、物事の多面性を理解する訓練になります。
ポイントは、単眼思考に陥りやすい、自分にとって都合が悪いケースほど、意識して複数の解決策を考えるということです。
このトレーニングを積み重ねて、本当に必要なときに世の常識に流されない複眼思考ができるようになれば、ビジネス思考力は磨かれ、問題解決能力が高められるにちがいありません。
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