やる気が出ないときの「課題こなし勉強法」
精神科医としての治療で、「隣の人に財布を盗まれた」と大騒ぎし、そのたびに警察に通報して家族を困らせている老婆をときどき診ることがあります。
「盗られ妄想」といって、自分のものが盗まれるという被害妄想にとらわれている患者です。
この老婆の場合、薬を与えることで症状はよくなり、「相変わらず盗もうとする人もいるけど、あまり気にしないことにしました」と話すようになります。
「盗られ妄想」そのものは消えないのですが、普通の生活が送れるようになるので家族はずいぶん助かります。
その意味で「よくなった」と判断しているのです。
勉強もまた、これと同じ考え方ができます。
現実に直面している問題は、勉強が手につかないことです。
不安そのものではありません。
不安の背景にあるのが、リストラなど自分の力ではどうすることもできないものならば、対策の施しようもありません。
こういう場合は、臨機応変に対応するべきです。
「不安でも勉強が手につく」状態まで回復させるのに必要な薬は、目の前の課題です。
それが資格取得など具体的な目標であってもかまいませんが、もっといいのは、自分なりの小さな課題をつくり出していくやり方です。
じつは、東大や京大に多くの合格者を送り込んでいる名門高校のなかには、圧倒的な量の課題を与え、それをこなさせることで生徒に自信をつけさせるやり方をしているところがあります。
生徒にしてみれば、与えられた課題に集中することで落ち込んでいる暇などなく、仮に不安にぶつかっても、その状態に耐えて結果を出すことで、崩れかけた自己愛をもち直すことができるわけです。
そこまで極端なやり方をする必要はないものの、この話は大いに参考になるはずです。
設定する課題は、困難を極めるものより、日常的にこなしていけるもののほうがやる気に直結します。
それがたとえどんなに小さなものでも、結果を出すことで自信につなげるわけですから、小課題を利用するのは効果的なテクニックとなります。
学歴もそこそこで学校の成績もまあまあだったのに、社会に出てからぱっとしないと感じている人は、みなさんのなかにもいるはずです。
挙げ句の果てに、格下と見ていた相手にまで営業成績で差をつけられたりしたら、地獄にたたき落とされた気分でしょう。
そんなときに自信を回復するには、やはり結果を出して自分を保つしかありません。
人がほめられることで自分を支えられるのは、自己心理学でもかなり重視されている考え方です。
たとえば、だれかに自分のファッションセンスをけなされ、そこで不安を感じたりすると、別の人に聞き回って確認したくなるということがよくあります。
そのとき、何人かが「センスがいいよ」とほめてくれると、不安は解消できます。
場合によっては「あなたのセンスがわからないあいつのほうが変だ」と聞くと気分が一転して、失いかけた自信まで回復させる人もいるかもしれません。
心理学では、このような状態を「自己愛が保たれる」といいます。
自己愛またはナルシシズムなどの言葉のイメージからは、鏡に映る自分の姿を見てうっとりしているさまを想像しがちですが、健全な自己愛とは「自分は生きる価値のある人間だ」と積極的に評価できることをさします。
それは自分を信じることにもつながるので、大いに価値があります。
世の中でいわゆるエリートと呼ばれる人たちは、まわりの評価を高めることを自己愛を支える手段にしていたりするものです。
なかには、自分に自信があるから努力できるし、それによっていい評価を得て、ますます自分に自信をもつという好循環を獲得しているうらやましい人もいます。
こうした理想的循環を繰り返しているかぎり、その人はこれから先もエリートであり続けるでしょう。
できるビジネスマンをめざすうえで、好循環をつくり出しているこの仕組みは大きなヒントになります。
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